Text: 第20回Domani展へ寄稿 2018

第20回Domani展カタログへ寄稿。2011年、文化庁派遣海外研修生としてニューヨークへ赴いた時のことを書きました。https://domani-ten.com/


『第20回DOMANI・明日展 未来を担う美術家たち』公式カタログ
発行:文化庁
発行日:2018年1月13日

金澤 韻
インディペンデント・キュレーター
平成 22 年度研修員 美術(アートマネージメント)
ニューヨーク(ジャパン・ソサエティ・ギャラリー)

 研修に行く前、私の人生は停滞していた。なかなか思うように展覧会企画のチャンスは巡って来ず、こういうことがやりたいわけではなかったんだけど、という仕事ばかりしていた。ついでに言うとプライベートもどん底だったので、文化庁の研修はやっとの思いでつかんだ起死回生のチャンスだった。研修では、当時、漫画文化を専門に扱う学芸員であった立場から「異なる背景を持った人々にどのように日本文化のよさを伝えていくか、研修先の蓄積を知り、態度について学ぶ」という目的があり、それに見合う成果を持ち帰った。しかし最大の衝撃は、日本にいる時と一歩外に出た時とでは見える世界が全く違う、という事実に気づいたことだった。それによって私の人生はものすごい勢いで転がり始めた。
 この視点を深めるために、研修を終えて帰国してから 2年後の 2013 年、英国王立芸術大学院に留学し、現代美術キュレーティングを学んだ。同時にインディペンデント・キュレーターとしての活動を開始し、ロンドン、トゥールーズ、マドリッド、上海で企画、日本でもスパイラル 30 周年記念展や茨城県北芸術祭をはじめ、複数の重要な機会に携わらせていただいた。現在も複数のプロジェクトを並行して進めている。最も大きいのが十和田市現代美術館の学芸統括で、これから行われる 4 つの展示を準備中だ。土地によっては言語や国情や観客の違いなど、悩むことも、絶望に近い困難を抱えることもあるが、それでもやはりキュレーターとして充実した日々を送っていると思う。
 留学中に、漫画文化研究の発端だった日本の文化帝国主義政策への興味は、そのまま世界中を覆うポストコロニアル状況への興味に引き継がれ、また物質/非物質性を兼ね備えた漫画文化の性質は、近代以降に登場した映像メディアやインターネットなどの存在と重なり、その影響を考えることにつながった。さまざまに異なる社会、歴史、言語、文化の中で生まれ育つ私たちの相違と重なりを見つめ、丁寧に橋渡ししていくこと。これが私のキュレーティングであり、それがよりよい世界への貢献にもなると信じている。